アクティブ・ラーニングの視点を早くから取り入れた佐藤学氏の「学びの共同体」とは!?
その全容を紹介します!
〇「学びの共同体」とは?
学校を改革する――学びの共同体の構想と実践 (岩波ブックレット)
- 作者: 佐藤学
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/07/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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現代社会の変化と社会で求められる人物像の変化から、アクティブ・ラーニングの視点が重視されてきていますね。
新学習指導要領にもアクティブ・ラーニングが目玉として掲げられる見込みです。
そういう状況ですから、様々なアクティブ・ラーニングの視点を取り入れた実践例が報告されています。
西川純氏の『学び合い』ですとか、両国高校の山本崇雄氏の「教えない授業」はアクティブ・ラーニングの例と言えます。
※それらについて書いた記事はこちらです。
今回紹介するのは、
佐藤学氏が20年ほど前から研究を続けて形にした「学びの共同体」です。
この「学びの共同体」については以前から何度も触れてはきたものの、しっかりとした説明をしていませんでした。
私は前任校で「学びの共同体」の実践を始め、佐藤学氏の講話を何度か聴きに行ったり、研究授業を行ったりすることで経験を積んできました。
それらの経験を活かし、アクティブ・ラーニングが注目されている今、改めて「学びの共同体」をみなさんに紹介したいと思います。
〇「学びの共同体」の授業実践
具体的な実践例は上の実践例を見ていただければと思いますが、「学びの共同体」をざっくりと説明すると「コの字型の座席配置」と「男女混成の4人組によるグループ学習」の二つによって成り立っています。
全体で確認をしたり、発表をする場合には「コの字」。
協同的な学びを行う際には4人組のグループ学習となります。
授業の展開によっては最初から最後まで4人組で授業を行う場合もあります。
理科室での学習をイメージしてください。
なんだ、ただのグループ学習かと思う方もいるかもしれませんが、「学びの共同体」が協同的な学びを深めることができるのはその課題の難易度にポイントがあります。
「学びの共同体」の肝となるのが課題提示なのです。
「学びの共同体」では通常の授業で2種類の課題に取り組みます。
一つ目が「共有の課題」。
この「共有の課題」は簡単に言うと教科書レベルの問題です。
教科書レベルの問題ですからほとんどの子が教科書などを参考に解くことができます。
ここでも分からない子がグループの子に聞く場面はありますが、「学びの共同体」をスタートした直後はおそらく静かに一人で取り組む時間になると思います。
そして、その後に用意するのが「ジャンプの課題」。
これは教科書レベルを少し超えた、高難度の問題になります。
たとえば中一の生徒に入試の問題を解かせるような形になります。
ほとんどの子がすぐには解けない「ジャンプの課題」を用意すると、不思議なことに学習意欲が高まるのです。
それも、「共有の課題」ができなかったような子まで必死に問題を解こうとします。
静かだった教室に少しずつささやき声が聞こえるようになります。
「ここはこうかな?」
「う~ん、ここまではできたんだけど…」
この「ジャンプの課題」を適切な難易度で提示したときに聞こえるグループ間の声は、決して賑やかで活発なものにはなりません。
すぐに解ける問題だった場合は分かる子が答えを教えて終わってしまいます。
このときは賑やかに活発に話し合いが行われますが、そこに深い学びは生まれません。
逆に難易度が高すぎると脱落者が出てきて声が聞こえなくなってしまい、そこにも学びは生まれないのです。
適切な課題を与えたときに起こる、ブツブツとささやくようにお互いに言葉を交わす中で、段々と正解に近づいていきます。
このとき、分からない子の「分からない」という声を拾うことができるのが学びの共同体の良いところで、分からない子ができた子の声を聴いていく中で互いに学び、互いに高め合っていくのです。
高難度の「ジャンプの課題」によってできる子はさらに伸び、できない子はその課題の中から基礎基本を身に着けていくことが佐藤氏の1000校を超える研究で明らかになっています。
この姿こそが真正の学びであると佐藤氏は述べています。
〇「学びの共同体」の課題は何か?
以上、「学びの共同体」の授業の流れを説明しました。
この「学びの共同体」を実践し、教育困難校であった学校が立ち直ったという例もいくつもあるそうです(佐藤氏の講演がソースなので、事実かどうかは分かりません。佐藤氏は若干ビッグマウスなので…)。
少なくとも、私は「学びの共同体」の授業スタイルに変えてから5年が経ちますが、授業アンケートはここ3年ほど学年全員(今年は250名)が「分かりやすい」「楽しい」5段階評価で4以上に〇がついています。
また、定期テストの得点分布も極端に低い生徒が少ない分布になっていますから、学力面でも成果を上げています。
四つの異なる学年全てそういう結果でしたから、効果のある授業形態であると言えるのではないでしょうか?
しかし、この「学びの共同体」には大きな課題があります。
これは佐藤氏からすると大きな課題ではないと思うのですが、私のように現場で実践している教員からすると大きな課題です。
それは、「ジャンプの課題」を設定するのが難しすぎることです。
先に述べたように「ジャンプの課題」は簡単すぎても難しすぎてもいけません。
適切な難易度の課題でなくてはいけないのですが、この「適切な難易度」というのがかなりシビアに求められるのです。
ほんの少しでも簡単すぎたり難しすぎたりするだけで「ジャンプの課題」にならないのです。
ということはそこに「学び」は生まれません。
ただの教え合いになってしまったり、解けなくて意味なく時間を過ごしてしまったりということになります。
事実私は何度も課題設定に失敗したと感じたことがあります。
自分の感覚では「学びの共同体」の授業を行うには普段の倍くらいの教材研究が必要になる気がします。
そのくらい課題設定が難しいのです。
〇アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業として取り組む価値はある!
しかし、課題設定が極めて難しいことを除けば、毎時間行うことも十分に可能ですし、どの教科でも行うことが可能です。
アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業をこれから始めたいという人にはおすすめの授業実践だと思います。
私の話だけではなかなかイメージが涌かないかもしれませんので、本当であれば実際に目にしていただきたいなと思います。
このサイトで佐藤学氏らの講演情報などが定期的に更新されますので、チェックしていただいて、まずは実物を見てもらうのが一番かと思います。
授業に行き詰まりを感じている方、アクティブ・ラーニングは何をしたらいいのか分からないとお悩みの方、ぜひ挑戦してみて欲しいなと思います。
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